中小・ベンチャー経営者の倒産の壁

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中小・ベンチャー経営者の倒産の壁

中小・ベンチャー企業では、各成長ステージでの壁が存在します。
よく言われるのは、ゼロ→1の壁、1→10の壁、10→100の壁ようなステージです。
経営者は、それぞれのステージで全く異なる悩みを抱えることになります。特に若いステージでの壁は、意思決定を誤ると倒産することも多いです。

これらの壁について、粗利と従業員数に当てはめて、ある程度の相関性が見られます。
そう言い切るのは、多少強引かもしれませんが。
次の4つのステージで説明いたします。

  1. 死の谷
  2. ダーウィンの海
  3. 30人の壁
  4. 官僚化

① 死の谷

いきなり不吉な名称です。
まずは、起業のステージです。
創業当初は、仮に一人で起業しようとしても、一人でプロダクトを作ったり、ファーストカスタマーを見つけるのは難しいことです。多くの場合、フルタイムではないが、パートタイムでサポートする相棒のいることが多いです。
スタートアップでは、2〜4人ぐらいのサポーターのいるケースが一般的です。

サービスが完成し、顧客がつき始めると資金も必要になります。よって、経営者は資金調達をします。しかし、このフェーズではまだ黒字に転換していない企業が多数派です。そして、お金の切れ目が縁の切れ目・・・となり、1〜3年で倒産するケースも少なくありません。
これが、通称「死の谷」と呼ばれるステージです。

② ダーウィンの海

「死の谷」を乗り越え、事業化するためには、社員の雇用や更なる資金調達が必要です。
このステージでは、従業員は5〜15人を想定します。
業種にもよりますが、一人あたり粗利1,000万円ぐらい出せていれば、おおよそ利益を残せる企業が多いです。
つまり、従業員が15人であれば粗利1億5千万円です。
逆算すると粗利率50%のビジネスであれば売上が3億円という計算です。
売上が3億円あれば、利益が残せるということです。

ではこのような会社が、なぜつまずくのでしょうか?
売上3億円が意味することは、それだけの規模感の市場が存在するということです。
当然ながら、その市場を狙うライバルたちがいます。
その競争に負けてしまうこともあるでしょう。

創業から間もないステージだと、まだ他社との差別化や競合優位性が確立されていません。
勝ったり負けたりを繰り返すことになりがちです。
負けが続けば、一気に売上&利益の低下にも繋がります。
また、争いを継続しているうちに原価率が上がることも、よく発生します。

「適切な種が生き残る」というダーウィンの論理の通りです。
適者として選ばれなければ、市場という海で溺れて、その海のモクズと成り果ててしまいます。
売上は3〜4億円あっても、勝ったり負けたりの継続で、業績不安定な会社は意外と数多く存在します。

そして黒字と赤字を行き来して、悩みを抱えるのです。
これが「ダーウィンの海」です。

③ 30人の壁

差別化や競合優位性ができ、勝利の方程式ができてくると、いわゆるビジネスモデルが出来あがります。
ビジネスモデルが完成すると、人などの資源を投入すれば基本的には儲かります。
規模拡大も目指せます。

そして売上や従業員が増え、黒字も継続できます。
良いことばかりに思えますが、ここで生じるのが組織マネジメントの課題です。
いわゆる「30人の壁」「50人の壁」と言われるものです。

ベンチャー企業の場合、業種によって社員数は異なります。
しかし業種に関係なく、おおむね社員30人を超えると、社長一人ではマネジメントできなくなります。

特に各社員たちが何をやっているか、全く把握できなくなります。
また新規事業の機会があれば、新たに雇用が発生します。

そのように色々な人たちが入社すると、円滑な組織マネジメントを行うのは大変です。
事業が少し傾くと、一気に不満が出始めます。

「収益は全てを癒す」という有名な格言がありますが、これは真実です。

やはり会社は、少しつまずいても収益が出ていれば問題になりません。
しかし少しでも売上が減少したり、目標に到達しないと不満が出てきます。
そして経営が”おかしな”方向に向かい始めるのです。

中小ベンチャー企業は基盤が弱いため、一気に組織が崩れたりします。
例えば誰かが辞めると、それでは自分も~といって、続いて辞職をする人が後を絶たなくなったりします。

これは良く起こる現象です。

30〜50人程度の規模に成長した組織が崩壊することは、ベンチャーでは日常茶飯事です。

④ 官僚化

現在に上場している会社は、このような組織マネジメントの課題を克服した企業です。
成長する中で、経営者が組織マネジメントを学んできた会社です。

そして中間管理職や経営パートナーを招き入れ、経営陣と現場スタッフが同じゴールを目指して走ってこれた会社です。

つまり、うまく組織化できた会社です。

ここまで到達すると、より会社らしい組織になっていきます。
きちんと役割分担をして、業務を進めていくのです。

この方法を習得すると、上場も選択肢に入ってきます。
上場はゴールではなく手段ですが、目指すこと自体は悪くありません。

上場を目指していなくても、業績が伸びてくると証券会社から話を持ちかけられることも多いです。
また、周りの華々しい経営者と話していると、上場を目指したくなることもあるでしょう(笑)。

ある程度の売上と利益が確保でき、組織体制などが整備されると、上場はそれほど高いハードルではありません。

まずはマザーズを目指し、その後は東証一部という目標を持つのも良いでしょう。

ただし、東証一部を目指すとなると、成長し続けることが必須です。

そのためには、多角化経営が求められます。

通常マザーズに上場するまでは、一つの事業に集中します。
一つのヒット商品で稼いで、その勢いで上場するケースが多く見られます。

しかし東証一部に上場するには、一点集中では力不足です。

マザーズに上場するレベルになると、他社のライバルたちも同じ市場を狙って次々に参入する可能性が高くなります。

よって、成長ストーリーが大事になります。
例えばAIを使って〇〇します~~、そのためこんな人材が必要です~~などと掲げてマザーズに上場するのは、よくあるケースです。

しかし、そこから東証一部へ指定替えする企業は少ないのが実態です。
いわゆる上場ゴールして目標達成を果たしたタイプです。

このステージで起きるのが「官僚化」です。

上場前後で入社する人材は、良い意味で真面目な人が多くなります(笑)。

しかし、新規事業は、真面目な人が創れば成功するとは限りません。
逆に、”はっちゃけた人”がいないと上手くいかないことも多いです。

上場して決算開示や内部統制などの制約を受けると、社内の監視機能が強化されます。
結果的に、新たな事業創造などに取り組みづらい環境になってしまいます。

まとめ

以上のように、①死の谷、②ダーウィンの海、③30人の壁、④官僚化、といった4つの視点で解説いたしました。
私自身も、これらのステージを数多く見てきました。
幸いにして、私の周りでは、①死の谷を経験したものの倒産した企業は一社もありませんでした。

企業経営には、様々なステージでの困難が存在しています。
自社が現在どの段階にいるのか、そして成長すると待ち受けている壁は何かを理解することが大切です。
経営者は日常の様々な課題で頭がいっぱいになりがちです。
客観的・論理的に現状を分析し、経営の意思決定につなげていくことが重要です。

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